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立ち食いうどん 松屋

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以前、立ち食いうどん屋の定点観測をやっていた時期があった。

僕はJR天王寺駅の立ち食いうどん屋「天王寺うどん」の大ファンで、
20代のお金のないときには本当にここにお世話になっていた。
全体重の4分の1はここのうどんとそばで構成されているのではないか、
というくらい通いつめていたものだった。

そのお礼に…というわけではないけれど、
最近、ホームページやブログというものが一般的になって、素人の
グルメごっこ情報が増えたのに辟易して、
「一回や二回その店に行ったからって、味や店の批評ができるもんじゃ
ねーよ」というアンチテーゼの代わりに、

「たかが立ち食いうどんひとつとっても、毎日、毎回微妙に味も違えば
店の印象も変わる」

ということが書きたくて、「天王寺うどん」に行くたびに毎回毎回、何か
書くことを見つけて書いていた。

毎回毎回、よくまあ書くことが見つけられるものだ、と感心してくれた人も
いれば、「この人はよくもまあいい歳をして立ち食いうどんばかり食べている
ものだ」とあきれられたこともある。しかし不思議と毎回、書くことには
困らなかった。


ネットで検索してみると、立ち食いうどん・そばのアマチュア研究家という人も
結構いることに驚かされる。意外なくらい「天王寺うどん」の評価は高くなくて、
せいぜい「中の上」といったところ。でも、僕が食べ歩いた中では、どう考えても
最上クラスなんだがなあ…。ま、食べ物の味のことで他人と言い争っても
仕方ない。

ところで、「天王寺うどん」以外の立ち食いで僕がおいしいと思うのは、
同じく天王寺の駅近く、阪堺線沿いにある「松屋」という古めかしい店。

「いったい創業いつだろう?」と思いながら、毎度忙しそうに働いている
おばちゃんに聞けずじまいでいる。僕が大阪に来た16年前にはまったく今と
同じスタイルで営業していたから、少なくとも昭和の中ごろくらいから
続いているのだろうとは思われる。

久しぶりに松屋の前を通りかかったので、とびこんで「キツネ」と注文する。

「にいちゃん、ごめんなあ。うどんが終わりやねん。タヌキでええか?」
とおばちゃんに言われる。

(関西地区以外の人のために解説。大阪では、キツネ、というと、うどんに油揚げの
乗ったものを示す。そばに油揚げを乗せると、タヌキ。関東ではテンカスを乗せた
うどん・そばをそれぞれ「たぬきうどん、たぬきそば」と称することがあるが、
関西には「きつねそば」「たぬきうどん」というものは存在しない。

僕はどうもタヌキが苦手なので、急遽にしんそばに注文を変更する。

この店のだしは、塩っ辛い。これは、この界隈がもともと労務者の町である
ことに由来するのだと思う。

立ち食いうどんは、もともと汗水流して働く肉体労働者の食べ物である。
これが塩っ辛いのは、まったくもって正しい。

「そうそう、このしょっぱさ。これが松屋の味なんだよなあ」としみじみと
昔を思い出す。

若い頃、この近くで肉体労働のアルバイトをしていた。
昼間中汗を流してクタクタになり冷え切った体に、ここの分厚く味濃く煮込んだ
油揚げの乗った熱いうどんはしみじみ旨かった。

当時はお金がなくて、440円のにしんそばは高嶺の花。もっぱらてんぷらうどんか
きつね(両方270円)を食べていたものだ。

街は変わり、人も変わる。僕も昔に比べると、すっかり体は衰えた。胸板は薄くなり、
腕も首もすっかり細くなってしまった。
けれど、松屋の佇まいと味だけは昔と変わっていない。

それが、なんとも懐かしく、うれしく、しみじみ美味しかった。

人間、食べ物の味は舌だけで味わっているものではない。
さまざまな「思い」もろとも、噛みしめているものなのだ。

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by y_hisakata | 2005-05-12 01:49 | グルメ・食べ歩き
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