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「檸檬」を訪ねて… 御茶ノ水散策

著作権侵害は重々承知の上、あえてそれを曲げて
掲載をお許しいただきたい。



「檸檬」   さだまさし


或の日  湯島聖堂の白い 石の階段に腰掛けて

君は 陽だまりの中で 盗んだ 檸檬 細い手でかざす


それを暫く見つめたあとで 「綺麗ね」と言ったあとで 齧る

指の隙間から  青い空に 金糸雀(カナリヤ)色の風が舞う


食べかけの檸檬  聖橋から放る

快速電車の赤い色が それとすれ違う


川面に波紋の広がり数えた後

小さなため息混じりに振り返り

「捨て去るときには こうして できるだけ

遠くへ 投げ上げるものよ」



君はスクランブル交差点 斜めに渡りながら不意に涙ぐんで

まるで この街は青春たちの 姥捨て山みたいだという


ねェほら そこにもここにも かつて

使い捨てられた 愛が落ちてる

時の流れという名の鳩が 舞い降りて それをついばんでいる


食べかけの夢を 聖橋から放る

各駅停車の檸檬色が それを噛み砕く

二人の波紋の拡がり数えたあと

小さな溜息混じりに振り返り

消え去る時には こうしてあっけなく

静かにおちてゆくものよ



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この歌を聴いたのは、僕がまだ高校生の頃だった。

梶井基次郎の「檸檬」はすでに読んでいて、この歌に出てくる

「檸檬」が京都丸善の書店に置かれたのと同一のものだということは

すぐにわかった。



あるラジオ番組でさだがこの歌を歌った後、御茶ノ水という街について
訥々と説明したのをきいたことがある。

その後、数年して僕は初めて御茶ノ水という街を歩いた。

なぜかそのときは、湯島聖堂が見つけられなかったのだけれど、
明治大学の脇を通って神田の古本屋街まで歩いた。

「ああ、都会の学生街ってこんなところなんだなあ…」と
眩暈のように感じたのを覚えている。



先日、ギターの弦を買いに御茶ノ水を訪ねた。

思えば、前回から20年近い時が流れている。

お茶の水も随分変わった…といいたいが、前回の風景をあまり
よく覚えていない。

しかしまあ、ところどころ見覚えがあって、それ以外のほとんどのところに
見覚えがないということは、随分変わったといっていいのだろう。


御茶ノ水という街は学生街で、それも、語弊を恐れず言えば、

「高級学生街」

という印象がある。御茶ノ水女子大など、「いいところの子」が集まる
大学が多いせいだろう。

緑が多く、景色が絵になる。


御茶ノ水駅というのは神田川に沿って伸びていて、神田川を渡るとすぐに
湯島聖堂はあった。

前回見つけられなかった理由は、歌から受けたイメージ(大きな神社の境内の
ようなもの)と大きく異なっていて、ひっそりとした石塀でかこまれていた
せいだったと思う。


「檸檬」を訪ねて… 御茶ノ水散策_a0026298_13373212.jpg


湯島聖堂の前は、歌のとおり白い石の階段になっている。

「檸檬」を訪ねて… 御茶ノ水散策_a0026298_1338392.jpg


「そうか、さだまさしはここに腰掛けて、『檸檬』を作ったんだな…」

20年以上の歳月を隔て、ふと彼を近しい存在に感じる。


湯島聖堂から出るとすぐに聖橋だ。この橋は大変美しいアーチ形状を描いている。

神田川という川はお世辞にも綺麗とは言いがたいが、こうしてみるとなかなか
どうして、美しく見えるから不思議だ。

「檸檬」を訪ねて… 御茶ノ水散策_a0026298_1340316.jpg


この聖橋からJRを見ると、こんなふうに見える。

「檸檬」を訪ねて… 御茶ノ水散策_a0026298_13403576.jpg


なるほど、この角度なら、川に投げた檸檬と電車がすれ違うわけだ…。


御茶ノ水駅を半周すると、スクランブル交差点に出くわした。

「檸檬」を訪ねて… 御茶ノ水散策_a0026298_13413641.jpg



これが、歌に出てくるスクランブル交差点なのかどうかはわからない。

20年もたてば、道筋も変わるし横断歩道も書き換えられる。

この位置は聖橋から少し離れているので、あるいは昔もっと別のスクランブル
交差点がどこかにあったのかも知れない。


それでも、今日もこのスクランブル交差点を、多くの若者が交差する。



…ああ、僕はこの街で青春を送りたかったな…

再び、20年前と同じ眩暈のような感覚に襲われる。



食べかけの夢を 聖橋から放る

各駅停車の檸檬色が それを噛み砕く



ああ、そうか…


僕もまた、この街へ 


「食べかけの夢」を捨てにきたのかも知れない。

この橋から。この川へ。



御茶ノ水という街が、涙が出そうになるくらい、好きだ。
by y_hisakata | 2006-09-02 13:45 | 旅・おでかけ
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