大巳、双葉、菱富、廣川、魚市、竹葉亭、江戸川、廣川、かね松、美濃吉、伊勢定…。
なんの定見も偏見も持たずに、手当たり次第歩き回った鰻編も今回で関西編は一応の終わり。 そう、ついに関西風「まむし」の大御所、柴藤本店に到達したのである。 地下鉄淀屋橋駅からやや東。北浜との中間当たりに位置するだろうか。正面はいかにも由緒ありそうなたたずまいだが、実は4階まで席のあるビルになっている。 創業は享保19年頃、徳川吉宗の時代というのだから古い。お江戸で将軍様が暴れてた頃に屋形船からスタートして実に300年の伝統。 とはいえ…。 「今では養殖うなぎも改良され、天然うなぎと変わらぬようになっております」(柴藤 主人敬白)としおりに堂々と書いてあるからには、天下の柴藤といえども今は天然鰻は扱いきれないのだろう。 さて、何を食べるか。うな丼と決まってはいるのだけれど、ここのうな丼の最上級は「超ウルトラまむし」。ただし、「単にボリュームがすごいだけである」旨をちゃんとメニューにうたってある。 うーむ。老舗の割におちゃめさんねえ、柴藤って。 特におなかがすいていた訳ではないのだけれど、まあ関西の「まむし」もこれが食いおさめだという想いがあるので、(写真写りも考えて)超ウルトラまむし、いってみました。 これです。 ちなみに、厚みはこうなっております。 ドカベンかよ。 私、この歳になって生まれて初めて「うな重のドカベン」というものを頂きました。 これだけだと、「なぁんだ、超ウルトラっていっても、普通の上うな重じゃん」って思ってしまうでしょう? ところが、世の中そうは甘くないのである。 食べ進んでいくと、ご飯の間から次の鰻の層が発見される。 そう、なんとこの超ウルトラまむし、上に乗っているのとまったく同じボリュームの鰻がもう一層埋もれているのだ。 これこのように、カッパドキアもびっくりの地下帝国を構成しているのである。 さんざ言い古されて手垢のついたウンチクではあるけれど、最近知らない人が多いので少々補足しておくと、「うな丼」というのはもともと関西で誕生した食べ物だという。 去る粋人の大旦那が、「芝居見物をしながら鰻が食べたい」と言い出した。けれど、ふつうの蒲焼では、じきに冷めてしまう。そこで、熱々の飯の間に鰻をサンドイッチした重であれば、冷めにくいし芝居の幕間にも食べやすい」と考案されたのがうな重であるという。 飯と飯の間で蒸らされるから、「間蒸し」=まむし、という説と、柴藤の主人も言っているように「まぶす(まぜる)」が訛ってまむしになったという説があるが、関西風うな丼・うな重は「まむし」と呼ばれる。もっとも現代では普通に「うな丼」と呼ばれているけれど。 まむしは、鰻を割いて焼くにあたって、途中で「蒸し」の作業を入れない。関東では蒸しの作業をはさむことによって、鰻の余分な脂肪を落とす。ついでに、鰻も川魚であるから独特の臭いがあり、これを飛ばす効果も蒸しにはあるようだ。まむしは焼きあがってからご飯の間で蒸されるため、蒸しの工程を省いているという考え方もある。必定、まむしのほうが鰻の個性と脂の強い風味になる。 柴藤の主は、これを「うなぎがうなぎらしくて香りが高く、味にこくがある」と言っているが、裏返せば「クセが強くくどい」ということでもある。これは食べる人の感性によるだろうが、昔と違い養殖鰻はどうしても脂が多い。それを考慮すると現代では、やはり関東風の焼き方に僕は軍配をあげてしまう。 さて。「もう二度とまむしは食わない」というわけではないが、大阪では目ぼしい店はたいがい回ってしまった。あと一軒、心斎橋の日航ホテルの地下に「中之島竹葉亭」という、竹葉亭の別の流れの店があるのでここには行ってみるつもりだが、竹葉亭は関東風の店だ。僕が秋には東京に移り住んでしまうことや、さすがに鰻は食べ飽きたというか食べ尽した感があるので、恐らく鰻シリーズ関西編はこれにてひとまず終了となるだろう。 だが…。東京にいくと、これまた手ごわい「野田岩」「尾花」など有名店競合店がひしめきあっているのである。 鰻の道に終わりはない。次回、関東編を刮目して待て。(笑)
by y_hisakata
| 2005-07-21 05:41
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